徳島県住宅供給公社で収賄疑惑浮上みなし公務員の犯罪は後を絶たず

(敬天新聞10月号)

住宅公社職員が収賄容疑で逮捕

 東京都住宅供給公社(渋谷区)が発注する工事を巡り、業者から賄賂を授受したとして、警視庁は九月十日、同公社部長の富永勝郎容疑者を収賄容疑で逮捕した。
 現金百万円の贈賄容疑で共に逮捕された業者は、同公社発注の工事ミス(契約履行成績不良)によって、最低でも三ヶ月間から最高六ヶ月間の指名停止処分が免れない窮地に陥っていた。それを異例の一ヶ月間に短縮したのが富永容疑者だったというのだ。件の百万円は、便宜を図った見返りだとされる。
 富永容疑者にはこの他にも、同業者側に工事受注いおいて便宜を図っていた疑いもあるという。
 そもそも、住宅供給公社とは都道府県や政令市が設立団体となり設置する特殊法人である。よって、職員は公務員ではないが公的業務に従事することから「みなし公務員」の立場にある。
 その意味から、今回の富永容疑者は職務権限による便宜供与を図った疑いにより汚職事件での摘発として扱われることになる。
 住宅供給公社絡みの事件といえば、凡そ十年前に発生した『青森県住宅供給公社巨額横領事件』が思い浮かばれる。通称「アニータ事件」である。事件当時、同公社の経理担当主幹であった男が、青森市内の飲食店で知り合ったチリ人女のアニータと結婚し、その前後から開始された横領は計十四億円以上にのぼり、その内の約十一億円が妻のアニータに渡った事件だ。
 今回の贈収賄事件とは毛色の違った事件ではあるが、特殊法人の住宅供給公社における杜撰な組織管理が根っこにあるともいえる。

ぬるま湯環境が犯罪発生の土壌

 地方行政中枢から離れ運営されている住宅供給公社は、職務権限は行政並に与えられているくせに、組織体制は余にもヌルイのである。その結果、幾つかの住宅供給公社は多額の債務超過を抱え経営破綻となっている。
 それでも、幹部が経営責任を問われるような事はなかった。
 何故なら、彼等の仕事は公的業務であって、身分は「みなし公務員」として保証されているからである。放漫経営の末に公社を潰したところで、何ら責任は問われない。だからこそ、見っとも無い事件が多発する割には、幹部公務員の天下り先として今も人気があるといえるのだ。
 因みに、今回の贈収賄事件の舞台となった東京都住宅供給公社のトップである河島均理事長は、同公社を所管する東京都都市整備局の局長を歴任した、典型的といえる関係先への天下りである。河島理事長の胸中を探れば、せっかく最高の天下り先に落ち着いたのに、叩き上げの部長ごときにミソを付けられたと怒り心頭の面持ちであろう。
 とはいえ、贈収賄事件で組織の幹部職員が逮捕された後に、河島理事長が自への処分に言及したり、東京都が何らかの監督責任を問うといった話は一向に聞こえてこない。
 一般企業であれば、組織トップの引責辞任に至ってもおかしくなく、少なくとも減給や報酬返還といった目に見える処分があって当然である。
 其処は其処、やはり「みなし公務員」の強みであって、いち職員が犯した犯罪であり組織的関与はないという常套句で、責任の一切を被ることなく、組織防衛を優先し終わってしまうのであろう。

徳島県住宅供給公社への質問状

 さて、今回の汚職事件が発覚し容疑者が逮捕されたと報道があった前日、当紙は同様の組織である徳島県住宅供給公社(徳島市=山本秀樹理事長)に公開質問状を送付していた。
 その内容は、同公社の職員が出入りの修繕工事事業者と癒着しているとの内部告発をもとに、その事実を問い質すものであった。まさに偶然ではあったが、全国に住宅供給公社職員の贈収賄事件が報じられている最中、自分等にも同じ様な嫌疑が懸けられたと、相当焦ったことに違いない。
 慎重な対応が必要だと痛感したのか、当紙が設定した回答期限に遅れることを事前に通知してきたうえで、改めて公開質問状への回答を寄越してきた。
 回答については、当該職員は施設管理の主任として県営住宅の修繕業務を行なっているが、修繕工事事業者の選定には関与していないので、特定の建設業者に便宜を図ることは出来ないという答えであった。
 よって収賄等の事実はないと否定してきた。ただし、指定業者ではないが修繕工事業者の中に友人がおり、個人的に食事等を共にしたことはあるとした。
 同公社は、収賄の事実はないが「利害関係者との間における禁止行為」等を定めた県の倫理規定に準じ、疑惑や不信を招く恐れのある行為を慎むよう、改めて当該職員に指導したと回答の最後を結んでいた。

指定業者への修繕業の押し付け

 当紙としては、回答の内容から当該職員への疑義が晴れたとは考えていない。特に、指定業者の下請け等の修繕業者に関しての質問に対して、同公社は関与していないことからわかりかねますとした部分だ。
 当該職員が担当する修繕業務に於いて、一番の身近な存在が指定業者の下請けである修繕業者であることからだ。同公社が発注する修繕工事には、突発的に発生する細かな工事が多くある。例えば、ドアが軋むとか襖の建て付けが悪いといった安価にして雑多な手間仕事である。
 当然、入居者の要望を無視する訳にはいかず修繕工事は施すが、その場合は下請けの修繕業者や一人親方の出番となるのだ。こういった修繕業者を管理しているのが当該職員であると考えられるのだ。指定業者の選定に関与は出来なくとも、それら指定業者に自分の息がかかった持ち駒の修繕業者を押し付ける事は、容易なことだと推測が立つ。又、それら行為が可能となる土壌が同公社にはあるのだ。
 徳島県住宅供給公社は、徳島県より「管理代行制度」及び「指定管理者」として委託を受け、県営住宅の管理運営を全般的に仕切っているのである。指定業者の選定は年度毎に決定するものだが、定められた予算内で業務を実施さえすれば、所詮は身内でしかない県によるおざなりの監査など簡単にスルーできるのだ。
 後は、指定業者にぶら下がる修繕業者が、せっせと手間仕事をこなして余禄を得ているという具合だ。当然、指定業者の下請けが施行したとしても、同公社は関知しないといった姿勢だ。

性質が悪いみなし公務員の実態

 ただし、県営住宅に用意されている予算は潤沢なものではない。指定業者にしても、手にする収益は僅かであろうが、それでも冷え込んだ建設業界の者にとっては、公共工事事案に縋るしかないのが現状なのだ。斯様な切迫した状況で、指定を人質に取られ縁もない修繕業者を押し付けられたとしたら不満も溜まるであろう。
 今回の内部告発も、不平不満の声なき声が溢れ出したからと考えられる。一方、告発の対象者である当該職員は、見分不相応な高級時計を身に付け、高級車を乗り回しているともいう。
 兎角、贈収賄事件では金額の大小に注目が行きがちだが、一回に数万円単位或いは飲食の接待を受けることだって、便宜供与の見返りとして受けた収賄であることに変わりはない。程度の差こそあれ、また公務員であれ「みなし公務員」であれ、発覚すれば摘発は免れない犯罪要件は満たしているのである。
 何にせよ、談合を繰り返す民間業者より、御上の権力を振りかざす「みなし公務員」の方が、よっぽど性質が悪いといった、救い様もない下らない話である。行政本体から距離をおくことで、我が物顔で放漫経営と悪さを繰り返す住宅供給公社に対しては、徹底的な集中監査が必要である事は確かだ。


飯泉嘉門 徳島県知事

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