乱立する詐欺被害金回収を謳う探偵新たな警察ビジネス誕生の伏線か?

(敬天新聞8月号)

時代と共に変化を遂げる詐欺師

 ここ何年も、常に複数の詐欺師を追及している当紙である。当然、詐欺の形態も其の時々で変化してきた。
 泥棒や傷害そして殺人といった犯罪に適用される法律は、昔から然程変わることなく犯罪者を裁いてきた。しかし、詐欺が人の財産を貪り時には自殺に追い込むといった結末に目を向ければ、泥棒や殺人と大差がないにも、適用される法律が追い付かないといった現実がある。

 詐欺師の多くは脱法行為と犯罪の「はざま」で荒稼ぎしてきたのである。また、巨額の金銭が行き交う詐欺市場には、世間的には健全さを装っているクレジット系企業や、本来ならば被害者側に立つべきである弁護士等の有資格者が、オコボレを拾おうと何食わぬ顔で参入さえしている。
 形は違えど、ヤミ金被害が社会問題化した当時、若手弁護士がヤミ金業者相手に恫喝紛いの返金要求をし被害者を救済していたことを、マスコミが正義の行いとして挙って取り上げていた。

 その後、その弁護士は消費者金融業者を相手にした、過払い金請求でも活躍し相当の報酬を得たともいわれる。この過払い金請求については、弁護士業務がビジネスであることを改めて思い知らされたものだ。
 しかし、その弊害として一般的な訴訟事案に見向きもせず、ひたすら過払い金請求に明け暮れた弁護士のスキルは落ち、その手の専門事務所に所属した若手弁護士は特に、必要な経験を積む機会を失ったのである。

 バブルに等しい過払い金請求も下火となった今、銭設けに目覚めた弁護士事務所や経験が片寄った弁護士は、結局は詐欺市場から発生する被害者を対象とした、弁護士ビジネスから抜け出せなくなったといえる。
 インターネットで詐欺被害や弁護士で検索を懸けると、出会い系詐欺に強い弁護士・投資詐欺救済専門といった弁護士広告がずらずらヒットする。その多くが、相談無料や着手金無しといった勧誘営業を展開している始末だ。

 被害者を生み出す詐欺師、それを拾い上げビジネスとする弁護士の構図を見ると、立場こそ真逆であれ需要と供給のバランスが保たれた一蓮托生の関係に思えるから不思議だ。
 とはいえ、弁護士に与えられた職務権限を駆使することで、被害者が救済されているのも事実であろうから、欲塗れとはいえ一概に弁護士ビジネスを非難するのも酷であろう。しかし、ある程度の成果が見込める弁護士と違い、何一つとして権限も無く何ら意味のない業務で、詐欺被害救済のビジネスに参入している輩が存在する。
 それが、詐欺被害金の回収を専門と謳う探偵業者である。

詐欺被害金回収を謳う探偵業者

 これら探偵業者は、詐欺師の特定や資産状況を専門調査によって明らかとし、連携する弁護士や警察OBらと協力し被害金回収の実績を挙げていると豪語している。当然、調査には高額な費用が発生するが、探偵業者は被害者に対して「金を取り戻す為には必要不可欠な調査」といって、調査業務の必要性を殊更に強調している。

 では、詐欺被害金の回収に於いて探偵業者の調査が本当に必要なのであろうか。答えはノーである。例えば、先だって未上場株を販売し詐欺容疑で逮捕・起訴された、当紙でもお馴染みの綾部登被告は、逃げる素振りを見せないまま逮捕された。
 当然、所在が明らかならば探偵業者に大金を叩いて調査を依頼する意味などない。仮に、行方を眩ましたとして探偵業者が警察に先んじて所在を突き止めたとしても、被害金の回収に繋がることはない。

 唯一、警察の手配を覚悟して逃げた者から回収できるとしたら、回収手段として脱法行為も厭わない暴力団ぐらいなものだ。
 そもそも、探偵業者ごときに被害金回収に繋がる業務の権限は一切ない。回収の代理は勿論、直接的な交渉さえも非弁行為にあたり許されていない。況してや、調査業務の過程や相手との交渉依頼で、警察や弁護士と協力して取り組んでいるとした事が事実であれば、関与した警察関係者や弁護士は、情報漏洩や間接業務委託を問われ、その時点で破滅である。

 結局、効果も無ければ意味もない調査に在りもしない付加価値を乗せ、詐欺被害者から更に金を毟り取っているに過ぎないのである。
 では、詐欺被害金回収にて斯くも存在理由に乏しい探偵業者が乱立した理由はなにか。

探偵業法施行こそが問題の発端

 その原因は、平成十九年六月一日に施行となった「探偵業の業務の適正化に関する法律」(探偵業法)にあるといえる。
 同法施行以前には、探偵・調査業を規制する法律はなかった。よって、誰であれ勝手に探偵を名乗ることができ、依頼を受けさえすれば言い値の報酬を得ることが可能だったのである。

 ある意味、野放し状態であったが故に、調査費をめぐる契約内容等のトラブルや調査内容を悪用した恐喝等の犯罪が増加したといった背景があった。そこで、業界の適正化を計ることを目的に探偵業法が立法化されたのである。しかし、この法律が逆に探偵業者に余計な存在価値、社会的地位を与えることになったのだ。

 現在、探偵業を営もうとする者は、営業拠点とする地域を管轄する都道府県公安委員会(所轄警察署が窓口)に、必要書類を用意して届出する仕組みとなっている。同法施行の以前と大きく変わった点が、誰でも探偵になれるとは限らなくなったことだ。
 探偵業を営むことが出来ない欠格事由が設けられ、主たるものとして、成年被後見人(精神上の障害がある者)や破産者、暴力団員等は探偵にはなれないとしてある。しかし、これら欠格事由に該当する者でも、要件に弾かれない者を立てさえすれば、何の問題もなく探偵業を裏から運営することは可能だ。

 何より、届出に必要な書類を揃えさえすれば、僅か三千六百円の手数料で晴れて探偵業の届出が完了し、公安委員会から「探偵業届出証明」が与えられるのだ。
 全く以ってお手軽な手続きなのである。しかし、同法施行以前は自称でしかなかった探偵業者にしてみれば、警察組織に組する公安委員会からの証明を得られることで、社会からの信用認識を安直に手に入れる願ったり叶ったりの法律になったのだ。

 現に、詐欺被害金の回収専門を謳う探偵業者の大半が、自社の宣伝ホームページにて警視庁や国家公安委員会のリンクを貼り付け、さも警察組織と関係があるかの誤解を招く情報を意図的に行なっている。

 一般人からすれば国家公安委員会というと、その字面から強面のイメージを抱くものだ。それ以上に揺るぎない正義を持つ組織であることに、疑いすらしないであろう。それ故に、同委員会から許可を受けた探偵業者なら、間違っても不正義な悪徳業務などする筈がないと考えるのも致し方ないことだ。
 斯様な背景があって、単に詐欺被害者を二次的に食い物にする俄か探偵業者が増殖する原因となっているのだ。

探偵業法改正に伴う警察の思惑

 ただし、探偵業者に余計な御墨付を与える公安委員会の不作為と断じるのは早計かもしれない。何れは、届出制とする現行の探偵業法の不備が問題となるであろう。その時、更なる厳格な適正化を訴え法律を改正することは十分に予見される。

 穿った見方をするなら、既に届出制から講習受講の義務化や更新制度の導入等を、ビジョンとして描いているやも知れない。そうなると、業界を管轄する警察組織に組する外郭団体等の設立も視野にあるとも考えられる。
 次から次と発生する詐欺事案であるが、それに乗じて新たな警察ビジネスが誕生するといった懸念は、余には飛躍しすぎか。しかし、詐欺師に群がる連中を見る限り、誰も信用ならんとするのも本音である。

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