TPPの生贄に裏ポーク脱税を摘発ニチロ事件から連なる闇が解明か?

(敬天新聞4月号)

消費増税に命懸けの野田首相

 野田佳彦首相が消費増税法案の提出に「不退転の決意、政治生命を懸ける」、と大見得を切って始まった通常国会。一月二十四日に召集されてから既に七十日を費やしたが、法案提出の目処すら立たない状況である。本紙が刷り上る頃には、何らかの進展があるかも知れないが、結局は先送りでチャンチャンか。兎も角、与野党共々の先生方は口を開けば賛成だ反対と叫ぶだけの、消費増税一色の国会になってしまった。
 その陰で、着々と前進している重要議案がある。環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への交渉参加に向けた事前協議である。此方も消費増税法案と同様に、反対派が多数いるのだが、経団連や日本商工会議所といった推進派業界団体の後押しもあってか、比較的スムーズに事が運んでいる気配だ。
 二月七日に米国と事前協議の初会合を開いた日本政府は、その後もTPP参加国との協議をこなし、初会合から僅か二週間余りで参加九カ国との事前協議を済ます素早さであった。消費増税法案を含め、他の重要議案も決着が付かぬまま放置状態の国会にあって、TPPだけは着実に既成事実を積み重ね始めている。

消費増税一色の国会の裏で…

 協議を進める程に「やっぱり止めた」、と途中離脱することは困難になっていく。諸外国との交渉事を無責任に投げ出せば、日本は其れこそ袋叩きに合うだろう。消費増税法案に絡んで解散だ総選挙だと騒いでいる議員が、既に外堀を埋められた感のTPP参加に、後になって反対と叫んだところで、時すでに遅しといった事になりかねない。
 TPP参加の是非は、国の近い将来の行末を決定する最重要課題だ。参加を前提に交渉に突入した今、本来ならば国民各層の意見を集約する時期なのだが、肝心要の国会議員がTPPの中身も理解しないまま、総選挙に意識を向けている様では、済し崩し的にTPP参加の道筋が出来上がる情勢だ。
 財界を中心とした賛成派に対し、農協・医師会らが引張る反対・慎重派の、それぞれの立場からの意見が尤もらしいから厄介だ。逆にいえば、それ程に難解な国策を国民一人一人が理解を深めるのは不可能に近い。詰まるところ、難しい事は解らないが経済が好転し生活が向上し透明性が確保されるのは、参加・不参加どちらなのかといった事で、世論の方向性が決まるのではないか。

国民意識をTPP参加へと誘導

 その意味では、国民意識をTPP参加へと緩やかに誘導するかの動きを、政府は既に取り始めている。着眼したのは、国民にとって最も身近で解りやすい日々の食卓に関係するものと、併せ不正防止をはかる透明性である。日米両政府が事前協議の初会合を終えた翌日、都内の豚肉輸入会社が約十四億円の所得を隠したとして、東京国税局から指摘されていたことが報じられた。
 追徴課税は約四億円に上ったとされる。所謂、安価な外国産豚肉の輸入に科せられる差額関税制度を悪用した脱税である。輸入豚肉業界では、これら関税法違反と脱税に毒された安価な輸入豚肉を「裏ポーク」と呼称している。又、この裏ポークが国内市場に平然と大量流通しているのが現実でもある。TPPの基本理念は、参加国間の輸出入関税の完全撤廃であり、保護主義的な不透明な取引を認めないというものだ。
 つまりは、安価な豚肉の輸入を阻害した上に脱税まで容易にさせる関税は、制度として撤廃すべきだとの方向に意見を誘導するに、これほど単純・明瞭な術は他にない。豚肉は、ハム・ソーセージといった加工品を含め、国民の食卓には欠かせない食肉である。政府にすれば、TPPに参加し関税が撤廃されれば、豚肉は安くなる上に不正もなくなる良い事尽くめであると、やんわりと言い聞かせたいのであろう。

差額関税制度の廃止は規定路線

 しかし、政府の姑息な子供騙しに踊らされてはいけない。そもそも、国内養豚農家の保護と市場価格の安定を大義名分として制定された差額関税制度だが、穴だらけの制度であるから関税法違反が頻発し脱税が横行しているに過ぎないのである。何もTPPに参加せずとも、制度に不備があるなら個別に改正なり廃止すれば済む話である。
 何も包括的に全てをTPPの枠内で論じる必要性はないのだ。所詮は、TPP参加へと国民意識を誘導するが為に、輸入豚肉業者が生贄にされたということだ。ただし、差額関税制度が脱税の温床となっている事実は変わらない。参加・不参加の論議は別に、この際だから洗い浚い脱税業者を炙り出すべきでもある。

裏ポーク稼業に群がる詐欺師達

 さて、当紙では差額関税制度に絡らむ事件を数多く扱ってきたが、本音で言えば関税法違反や脱税といった表面的な犯罪は、当局や国税に任せれば十分だとも思っている。
 当紙がここ数年、独自に掘り下げて追求してきたのは、裏ポークの背景で飛び交う闇マネーに群がる小賢しい悪党共なのである。いうなら、巨額脱税が頻繁に発覚する裏ポーク稼業は、盗人や詐欺師にとって旨味のある舞台なのである。
 当然、関税法違反や脱税で検挙された者らの周辺には、この手の輩が生き血を啜るヒルのように吸い付いている。なかには輸入業者として脱税をこなしつつ、同時に他業者に吸い付き喰らうツワモノも存在する。今回、当紙のターゲットであった該当人物等が、東京地検特捜部によって捕まった。輸入豚肉に絡んで計九億五千万円余りの所得税を脱税した、食肉ブローカー柴田謙司と堂谷邦宏のコンビだ。特捜による両容疑者逮捕の直接容疑は所得税法違反であるが、その一方で税関当局は少なくとも数十億円の差額関税を脱税した関税法違反についても調べを進めているという。

柴田・堂谷の脱税コンビの正体

 ただし、両容疑者について当紙が確証をもって断言できるのは、裏ポーク稼業の旨味を弄した詐欺の実行犯ということだ。両容疑者を知るに至った経緯は、逮捕コンビの片割れである柴田謙司(当時=トップコーポレーション代表)が借主となっている三十億円の金銭借用証書を、貸主である岩本陽二(当時=モートン代表)が騙されたといって当紙に提示してきたのが切っ掛けであった。
 今も同証書のコピーが手元にあるが、約定日付は平成二十年三月十一日で、連帯保証人には個人としての柴田謙司と、もう一人瀧義洋の署名捺印がある。この顛末については、過去に幾度となく報じてきたので割愛するが(詳細はウェブで)、今回の柴田謙司逮捕で同証書に名を連ねた全員が逮捕された事になる。
 同証書の約定日の翌日にニチロ冷凍倉庫の詐欺事件で逮捕された瀧義洋、その数年後にローソン子会社不正資金流用に関与して逮捕された岩本陽二、そして柴田謙司の所得税法違反での逮捕。逮捕理由は様々であるが、全てが裏ポークで繋がっているのだ。岩本陽二が柴田謙司に騙されたのは確かだ。しかし、騙されたとする金もまたローソン子会社から不正流用した金だった。柴田謙司もまた「騙していない。豚肉はニチロの倉庫にある」、と言ったが嘘だった。
 同時期、裏ポークの主要舞台となったニチロ倉庫では、タレント南野陽子の旦那、金田充史もまたニチロ倉庫をネタに金を引張った模様だ。これ以外にも裏ポーク稼業に魅せられた銭ゲバ達が、この一連の流れで騙し騙されを繰り広げている。まだまだ興味の尽きない業界であることは確かだ。
 TPP啓蒙の生贄となり、すっかり世間に認知された裏ポークの呼称だが、年末恒例の流行語大賞にノミネートされるのは確実かも。

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