庚申会、2012人類の終焉なのに将来の皮算用

(敬天新聞5月号)

2012人類の終焉

 今から五年ほど前、新興宗教団体の代表が『2012人類の終焉』なる本を出した。
 現代科学の常識を打ち砕き宇宙の大異変を予言する衝撃の書という触れ込みであった。著者は宗教法人「庚申会龍神総宮社」(京都府宇治市)の辻本公俊祭主代行である。
 宗教法人格のトップでありながら何故に祭主代行かといえば、今は亡き庚申会龍神総宮社の創始者であり、辻本公俊の父親でもある辻本源次郎が、祭主として崇められているからである。この祭主様は、生前に数々の奇跡を起こした超能力者とも霊能力者とも言われており、庚申会龍神総宮社の信者のなかでは神格化されている。超能力者であった父の跡取が予言者という、ちょっと危ないカルト的集団ともとれる。
 オウム真理教を筆頭に、過去に重大事件を起こしてきた新興宗教団体の多くが、超能力・霊能力を持つといわれる教祖が、世紀末的な予言を弄して信者をコントロールしてきたものだ。ただし、庚申会龍神総宮社は妄信的な危険思想によって組織化されているという訳ではない。
 どちらかといえば、京都周辺の地元に根付き、信者もおばチャン連中を中心にしたアットホームな集団のようだ。とはいえ、暇を持て余す小銭持ちのおばチャンを、主催パーティーに招いては広く浅く金を吸い上げる集金システムが確立しており、やり手の宗教ビジネス組織であることは間違いない。おばチャン連中を虜にしていた祭主亡き後、金を運んでくる信者を離さないが為に、辻本公俊は超能力者を自称した父に張り合って、予言者を名乗ったというのが真相であろう。
 しかし、信者離れを食い止めることが出来ず、組織票欲しさに群がっていた地元選出の政治家らも距離をおき始めたという。そんな状況の中、本当の奇跡が起きる。徐々に疲弊していく庚申会龍神総宮社に救世主が現れたのである。

救世主貴乃花

 救世主の名は、当時は無敵の現役横綱で現日本相撲協会理事である貴乃花だ。京都の片田舎から如何わしい予言を発する辻本公俊の電波をキャッチした貴乃花は一気に心酔していった。予言者辻本公俊を先生と呼ぶ貴乃花は、上記した『2012人類の終焉』発行の際、帯に推薦文を寄せる間柄にまでなった。
 又、大阪場所開催時には庚申会龍神総宮社から宿舎・稽古場の提供を受けるなど、タニマチ的な繋がりが強化した模様だ。庚申会龍神総宮社にとって貴乃花の存在は絶大となる。何よりも、離れかけていた信者らが「天下の横綱に慕われ尊敬される辻本公俊祭主代行は素晴らしい御方だ」と、再度、宗教団体に繋ぎ止めたのである。
 直近の例でも、日本相撲協会が八百長事件の余波で本場所開催を断念する事になった二月六日、その前日に貴乃花は横綱の白鵬や他の大関らを引き連れ、庚申会龍神総宮社主催の節分祭に参加している。相撲協会が苦渋の決断を下す前日、理事会に参加する理事たちの胸中は乱れていたに違いない。
 ところが、理事の一人であり、協会の顔とも言われる貴乃花は、東京から遠く離れた京都に出向き、豆マキに興じていたというのだから、その神経の図太さ、当事者意識など微塵もない身勝手さには呆れるばかりである。大相撲存亡の危機に直面して尚、尊敬する辻本公俊への義理を果たすとは、貴乃花の信仰心の深さをまざまざと証明したといえる。
 さて、日本相撲協会は八百長事件を終結させようと、二十五名の力士・親方の関与を認定し引退勧告の処分とし、勧告を不服とした数名に対しては、より厳しい解雇処分とした。解雇となった力士が不当処分として法的手続きに着手する意思を表明していることもあり、全面解決までには程遠いというのが現状だ。加えて、日本相撲協会は今回の東日本大震災への対応も加わり、理事一人一人に課せられた責務は増すこととなる。
 況してや、北の海・九重・陸奥の三理事が八百長事件の責任をとって降格処分となり、理事の人数が減ったことで協会運営そのものに悪影響を与えることは避けられない。その中でも、貴乃花は我が道を突き進んでいる。前回の理事選挙で自身を推した親方等と共に「貴乃花グループ」と名乗り、協会や一門とは距離をおく独自路線を進んでいる。

元横綱のスタンドプレー

 その貴乃花グループは、震災支援でも協会意向を無視して暴走を始めたのだ。日本相撲協会は理事会の意向として、自宅待機と被災地への訪問は認めないと全協会員に通知していた。外国人力士のなかには、在日大使館や母国の家族から一時帰国を求められても、協会意向に逆らえば強制引退だと脅され、日本に留まっている。
 残る残らないは当事者の意思を優先すべきである。実際、他のプロスポーツ界(野球やサッカー)の外国人選手で、帰国した者が多数いた。そして、それを非難したり認めないといった団体組織は皆無であった。家族が心配するなか堪えている外国人力士を横目に、それを強要する通知を出した協会理事の一員である貴乃花は、逆に好き勝手に動き回るのである。
 街頭募金活動といった被災者支援は認めるものの、被災地に出向くのは時期尚早としていた協会意向を無視した貴乃花は、これ見よがしに宮城県三陸町を訪問し、貴乃花個人口座名で募った募金を資金に、炊き出しを強行したのである。腰の重い日本相撲協会、行動を起こした貴乃花、人情的には貴乃花の行為を称賛する声が多いかもしれない。

広告塔の独走で教団も躍進

 しかし、貴乃花は協会に属し運営に携る幹部であり、部屋を持つ指導者でもある。気にくわなければ好き勝手に振る舞う様は、余にも幼稚でしかない。関係者に迷惑を撒き散らしながら強行した炊き出しについて、放駒理事長が「いいかげんにしろ」と吐き捨てたというが、その心中は察するに余りある。
 将来の理事長候補といわれる貴乃花の暴走は、様々な問題に対応する放駒理事長にとって新たな頭痛のタネとなっている模様だ。来年の二月には理事改選が予定されているが、孤軍奮闘中の放駒理事長は定年に絡んで再選することはない。次期理事長候補の筆頭であった九重が役員に降格した今、貴乃花理事長の誕生も、僅かながら現実味を帯びてきた。
 前の理事選で一門を裏切らせ立候補を焚き付けたのが予言者辻本公俊であったともいわれている。広告塔である貴乃花の出世こそが、庚申会龍神総宮社の更なる発展へと繋がると考える辻本公俊にとって角界を揺るがした野球賭博に八百長事件、更には東北大震災さえ罰当りにも好都合と捉えているかもしれない。
 しかし、来年には自ら予言した人類の終焉を向えるというのに、何とも生々しい将来設計を企てる辻本公俊である。
 いい加減に目を覚ませ貴乃花


宗教ジプシーも程々に
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