(敬天新聞7月号)
『期間限定・特別キャンペーン・今月の目玉・本日のおすすめ・完全無料・業界一・世界一』等々。大型電気店や紳士服店に有りがちな広告コピーである。
この手の業界では、年がら年中なにがしかのキャンペーンを行なっているもので、消費者は慣れっこになっている。当紙事務所の近隣にあった紳士服店などは、閉店セールを数ヶ月やった後、完全閉店セールなるものを数ヶ月続けた末、漸く店じまいに至った。
昨今、公正取引委員会や新設された消費者庁の指針として、実績のない価格や営業手法の表示が消費者に対し有利誤認(実際のものより著しく有利であると、一般消費者に誤認されるもの)を与えるおそれがあると、これら不当表示広告等の監視・取締りに力を注いでいる。
際立つ例として、実績のない通常価格と割引価格を併記して、お得感を消費者に与える手法だ。「期間限定、今だけ半額」といったキャッチコピーに消費者が飛び付けば、提供する側の罠にまんまと嵌ったに過ぎないのだ。消費者の防御策は只ひとつ、多くの情報から適性価格を知ることである。
さて、顧客の奪い合いから不当な広告を垂れ流す業界は、大型電気店や紳士服店の専売特許ではない。寧ろ、それら業界を凌ぐ勢いで熾烈な広告合戦を繰り広げている業界がある。
それが、美容外科業界である。
適当に美容外科のウェブサイトを見れば一目瞭然だ。冒頭に記した広告コピーが、洪水のように溢れているのが解かる。物を売る商人が、商売敵を蹴落とす為にアノ手コノ手を繰出し、時には法の枠からはみ出すこともあるだろう。しかし、いやしくも医師でありながら、患者(顧客)を不当広告や安売りで誘引する行為には、怒りと危惧の念を禁じ得ない。
美容外科そのものを否定するつもりはないが、形振り構わない患者漁りをする医師は、どうしても馴染めない。医師とは立派な人物であり、崇高な職業といった認識は、もはや古臭いもののようだ。所詮、保険適用外の自由診療を生業とする経済医師にとっては、患者は飽くまでも御客様であり、医療行為は経済活動そのものでしかない模様だ。
斯様な拝金主義にて突っ走る、とある新興勢力が美容業界を席巻している。都内を中心に主要地方都市に十六院を展開する「湘南美容外科」(相川佳之院長)がそうだ。
日大医学部を卒業した後、美容外科に飛び込んだ相川佳之は、僅か三年後に独立を果たす。その後は着々と分院を増やし、十年そこそこで業界有数の勢力へと成長していった。本来なら外科医としての経験・練成期間を積む段階で、事業規模を急速に拡大していった事実を踏まえれば、相川佳之の評価は医師としてではなく、やり手の事業家という方がしっくりとくる。
勿論、医師の本流である臨床医となる経験を踏まずに、一直線に美容整形外科に向ったことからも、並々ならぬ事業意欲が垣間見れる。
加えて、相川佳之には業界の顔ともいうべき「高須クリニック」の高須克弥院長に相通ずる匂いを感じる。双方とも、自らが美容整形の被験者となり、その出来栄えをアピールしている。
男の整形の是非については、意見が割れるであろうが、メスで切り刻んだ作り物の顔と、脂肪吸引で無理くりでっち上げた肉体を人前に晒す神経は、どうしても理解できない。尤も、かっちゃんこと高須克弥院長は既にタレント(お笑い若しくは弄られキャラ)として世間に認知されてもおり、気色悪さは薄れている。
一方、相川佳之は中途半端なイケメンということで、自己陶酔にドップリ浸っている様がいやが上にも想像され、気色悪さはかっちゃんの遥か上をいく。とは言え、当人の美意識や主観的行動を、周りがとやかく論じるものではなく、結論からいえば「どうぞご勝手に」といったとこだ。ただし、消費者を巻き込んでの事業上の疑義ともなれば話は違う。
湘南美容外科が急成長を遂げた裏には、徹底した広告戦略がある。現在の同社ウェブサイトの内容は、顧客の掴み方の見本のようなものだ。湘南美容外科が顧客を釣り上げる文言が「女優・モデルが通う美容外科」だという。実際、公式サイトのトップページに女優の後藤理沙(誰?)が登場しており、自身が受けた脂肪吸引や豊胸手術等の術前術後の写真が掲載されている。
少し前には、次期参議員候補の三原じゅん子が若返り施術を受けたとの記載もあったが、選挙絡みの制約から削除された模様だ。例え無名女優であったり落ち目のタレントとはいえ、通っていた事は事実のようだ。湘南美容外科からいわせれば「嘘はない」と、胸を張って芸能人御用達をアピールしているのだろうが、カネを積み上げて広告塔に起用した極々僅かな二流芸能人を前面に押し出してるに過ぎない。
これに併せ、一般消費者に対しても「治療費完全無料モニター急募」としたキャンペーンを随時行なっている。術前術後の映像を撮る条件で、高額手術費を無料にするというものだ。ただし、迂闊にも応募してしまうと、諸条件の相違から結局は支払いが生じる場合があるようだ。二重瞼のモニターに応募し契約したところ、条件外(有料)の高額豊胸手術を強引に進められ、ついつい承諾してしまうといったケースだ。
これは典型的な業務提供誘引販売取引(モニター商法)であり、当紙が常日頃から糾弾対象としている詐欺師連中の、好条件でカモを誘き寄せるといった手法の一つといえる。他にも、湘南美容外科の怪しげな広告は枚挙に暇がない。なかでも、相川佳之のナルシスト振りを筆頭に、同院所属四十名の医師全てが、美のプロフェッショナル「ゴッドハンド」と自称するに至っては、もはや失笑する他ない。
外科医の世界では、心臓外科や脳神経外科の分野で、神憑り的な手腕を発揮する有名外科医がゴッドハンドと呼称されている。当然ながら、こういった外科医は自らをゴッドハンドと名乗るような恥ずかしい真似はしない。
何にせよ、湘南美容外科には自称とはいえ、四十名からのゴッドハンドが集結しているらしいから恐れ入る。だがしかし、気色悪いナルシスト集団の本性は、美容外科業界をのし上るが為には、手段を選ばない狡猾な事業集団であることを忘れてはならない。
湘南美容外科の稼ぎ頭でもある、レーシック専門院「新宿近視クリニック」の周辺では、医師の引き抜き・情報の不正入手・他院への情報攻撃と、企業戦争さながらのきな臭い話が飛び交っている。(次回へつづく)